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大阪高等裁判所 昭和57年(ラ)41号 決定

抗告人 大原美津子

被相続人 石田容子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原審判を取消し、本件を京都家庭裁判所に差戻す。」との裁判を求めるにあり、その理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

(一)  抗告人は、原審判が家事審判規則一一九条の四第二項に違反する旨主張するので次に判断する。

家事審判規則一一九条の四第二項は、数人から相続財産の処分の申立があつたときは、審判手続及び審判は、併合してしなければならない旨を定めている。ところで、一件記録によると、被相続人石田容子の相続財産に関して抗告人のほかに徳田友次が特別縁故者として相続財産分与の申立をしていることが認められ、これと抗告人の本件分与申立が手続上併合審理された形跡は記録上うかがうことができない。してみると、本件審判は抗告人主張のように併合審理を経ないでなされた審判といわざるをえない。

しかしながら、家事審判規則の右条項は、複数の申立人に対し矛盾した審判がなされることを防止し、また各申立人の特別縁故関係を比較検討して処分の可否、程度等を決することができるようにするために定められたものであり、実務上の便宜をはかつた訓示規程と解されるのであつて、これに違反してなされた審判が当然に無効となり、または取消原因となるものとは解しがたい。しかも、右条項が右述のように特別縁故者とされる者相互間の調整等を図る趣旨であることに鑑みると、本件のように特別縁故者でないとされる者についてまで、右条項を適用しなければならないものではない。

以上いずれにしても本件審判は手続上有効であつて、抗告人の右主張は理由がなく採用できない。

(二)  抗告人は、被相続人との特別縁故関係を種々の事実を挙げて主張するが、当裁判所も抗告人主張の事実をもつては(各個の事実を総合しても)、いまだ財産分与をなすべき程度の特別の縁故関係があるとはいえないと認定、判断するのであつて、その理由は原審判理由記載と同一であるから、これを引用する。

そうすると原審判は相当であつて、本件抗告はその理由がないから棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 藤野岩雄 坂詰幸次郎)

抗告の理由

一 原審判には以下の違法がある。即ち、亡石田容子(以下被相続人という)の相続財産に関しては、抗告人の外に徳田友次が相続財産分与申立をなしているものである。しからば、家事審判規則第一一九条の四の第二項により併合して審判手続並びに審判をなさねばならないのに之を看過して抗告人に対してのみ審判をしたのは違法である。

二 抗告人が被相続人に特別の縁故関係がないとした原審判は法律の解釈を誤つている。

1 抗告人は被相続人と従姉妹の関係にあり、このように自然的血縁関係が認められる場合は、そのこと自体切離すことのできない因縁であつて縁故関係は相当に濃いものであると認めるのが相当である(昭和四四年一二月四日大阪高決定昭和四三年(ラ)第三九〇号、三九五号参照)に拘らず、全然特別縁故者に該当しないと断定したことは誤りも甚しい。

2 抗告人と被相続人との関係について、抗告人が申立の実情(2)と(3)に述べているように、抗告人の父が法律上の扶養義務者であるとしても、抗告人の父以外の他の扶養義務者が扶養もしくは入院費の立替等の援助をしなかつた時は、抗告人側に特別縁故を認めて差支えなく、抗告人の父の因縁は当然抗告人において援用し得るものである。

更に被相続人が第二○○病院に入院中、わざわざ抗告人を呼び寄せたことは両者の密接な関係を示すもので、さればこそ抗告人に対して被相続人は徳田友次から遺言の作成を迫られて困惑の限りであつたことを訴えたものである。

3 被相続人の唯一の不動産の取得は抗告人と母沢本ヨネからの買受代金の実に七分の五に相当する金五万円の借入によつて出来たものである。しかもこの借入金の弁済がなされておらず、結果においては抗告人が購入代金の殆どを支出したに等しいことになつているのであつて、このことは単純に債務負担に過ぎないとは言い切れないのであつて、これなくして何の特別縁故ぞと言いたいのである。

4 更に申立の実情(5)乃至(8)に記載の事実は、単に従姉妹としての情誼以上のものがあり、この生前における行為はまさに病気の時における療養看護に努めることに匹敵するものである。

5 更に、抗告人が被相続人を見舞い慰めたこと、死後、年回を主宰したこと、及び固定資産税を支払つたことは特別縁故とするのが相当である(昭和四八年一月一七日名古屋高民二決定・昭和四七年(ラ)九〇号参照)。

6 仮に原審判のいうように、各項目の一つ一つをとれば特別縁故に該当しないとしても、すべてをまとめて被相続人と抗告人の歴史として勘案した時、特別縁故関係が看取できるのである。原審判の考え方は、親族と非親族を並べた場合遺産(家の財産という考え方があり、他人に渡したくないのが人情)の分与という性質から本来親族に行くように、即ち親族に厚く考えて然るべきであるのに、むしろ親族であるが故に特別縁故を親族の情誼にすりかえてしまい、かえつて不利益に取扱つているのであつて、到底承服できないのである。

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